青野文昭は打ち捨てられた神社の鳥居、朽ちた看板などの断片をもとに、その過去の状態を復元する。彼のとるこの修復という方法は、拾われた断片の備えていた機能の修理ではない。上の写真では素材として車の断片が使われているわけであるが、もちろん動くわけではない。ただ、作家の復元した車の造形を前に、私の知るはずもない多くのことがらが車のかたちそのまま、私の思いを遠くさらって行ってしまうような気配を感じているに過ぎない。

 現在という時もまた、みるみるうちに時間の渦にのまれ過去となる。だが、過去も転じて現在として現れる。そして、それが世界のあり方なのだろうと思う。

 

breeze』bS7 2001年掲載