ギャラリーの奥には、天井すれすれの高さの赤い鳥居が建てられている。
これは、仙台郊外の八木山越路神社という、今では朽ち果てて草に埋もれてしまった社にあった鳥居の残骸を拾ってきて、そこに粘土などで残りの部分を付け足すことでもとの姿を再現した作品で、今回展示された他の作品も、同様の方法で制作されている。採集してきた鳥居は、腐りかけた2mほどの長さの木に赤いトタンを巻き付けた状態のものであったそうだが、「鳥居」の作品は、この赤いトタン約1m分に他の部分を肉付くすることでつくられており、さらにトタンの残りの部分は平らにのばされ、そこに鉄板を継ぎ足して横長の平面作品に仕上げられている。また天井近くまで届く高さの鳥居の支柱の木は、粘土の土台に支えられた短い支柱と共に、螺旋を巻く粘土に支えられた立体となり、「越路神社跡地」と記された立札の板も、継ぎ足されて横長の平面作品へ置き換えられた。
 これらは現地で採集されてきたものに、いわゆる「つくりもの」の部分を足して制作されているが、そうした作為をほとんど見破れない様な造形的努力がなされている事により、それぞれの作品は、不可思議な質感に支えられたリアリティーを漂わせている。つまりここに展示された作品は、作者の記憶のなかにある神社の姿を再現するという趣旨を含んで制作されたものであるが、一個人の記憶の断片が具体的な形を伴って現れる様が、私たちの意識を、「風景に刻まれた記憶」、「作者自身の記憶」さらに「記憶が宿る造形物」の3者を行きつ戻りつさせることによって、特異なリアリティーを伴った空間がギャラリーの中に出現したと思われるのである。



青野文昭展

2000年11月21日(火)〜11月26日(日)