《 な お す こ と の 意 味 》
何ごとか、ものをつくるというのは、全く今までに見たことのないものをつくるという
よりは、以前どこかで見たような、聞いたような、おぼろげな何ものかを追い求めて行く
ようなところがある。一つの都市だって、一つの宮殿だって、かつてあったような、どこ
かにあるような、理想を夢想し、つながっているものである。そして、それは、ひとつの
家、ひとつの庭、ひとつの人生でさえも。
その意味で、ものをつくるというのは、復元しようとすることと深くつながっているよ
うに思える。ルネサンスとは、都市全体、時代全体の巨大な再生運動であった。
私の興味は、そのようなものをつくりだす上での心のありよう自体である。そこには、
月並みな言い方で言えば、理想と現実、形而上世界と形而下の世界の、いかんともしがた
い、深い裂け目が横たわっている。しかしその裂け目こそ、形而上の世界を無限たらしめ、
形而下の世界を未知なるものたらしめる。そのような一つの関係が、一つの存在を生き生
きとあらしめることを知っている。
そういう関係を生みだすことこそ、私のやるべきことだと思う。
H10.10.8