<延長>
「なおす・延長」というタイトルの付く作品では、まず、断片を「社会的、機能的」観点ではなく、「もの自体」的観点で受け止めようとするところから総てが始められる。そこでは最初のきっかけとなる断片の、形状そのものの固有な流れを最大限に尊重する。なんとなく断ち切れた、アンバランスな、欠落したような性質を、より満ち足りた、「顔」の見える、整った、「まとまり」に導こうとする。その場合作家の個人的な思いつきや過剰な付け足し、改変は慎重に回避される。
その結果、ニュートラルな「まとまり」に向かって、どの方向かに「継ぎ足され」、「形が閉じられる」場合が多い。断片は、何か新たなものが付け加わったり、改変されるのではない。ただ元の状態が引き延ばされ、延長され、「まとめられる」だけだ。言い代えれば、元から持っている特質を、より目に見える形で引き延ばすことにより、それを引き出し、形成される全体に、より反映させるということになる。
結果的に「延長」では、ニュートラルで幾何学的な形態になる場合がほとんどである。それは例えばタブロー絵画や立体彫刻の原形に近似してくることになる。その結果、過去/現在、他人/自分、工業製品/手作業などの「なおす」作業自体から来るもともとの対比関係の他に、日常品/芸術品、具体性/抽象性、ノイズ/ニュートラル等の対比が新たに浮上してくる。
*参考
「延長」、「復元」、のように一つの断片による作業では、断片に附随する「基底面」と、新規に修復される部分に附随してくる「基底面」が相互に影響しあうことになる。相互の影響関係の中から全体としての「基底面」が発生して行く。拾われた断片と新規の修復部の「基底面」相互の間には、過去/現在、他人/自分、工業製品/手作業などの違いがありる。それは対比・融合関係を造り出し、「なおす」行為ならでわの独自の創造性の核となる。
<復元>
「なおす・復元」とタイトルの付けられる作品でも、まず、断片を「社会的、機能的」観点ではなく、「もの自体」的観点で受け止めようとするところから総てが始まる。ただ、その結果が「延長」ではニュートラルな抽象性を帯びるのに対し、「復元」では具体的、社会的事物の形状を最後まで引きずるという違いがある。どちらも最初のきっかけとなる断片の、形状そのものの固有な流れを最大限に尊重することではかわりがない。「最初のきっかけとなる断片」には千差万別あり、元の社会的意味合い、形状の痕跡を強く留めるものと、逆に元の意味合いや形状が既に不明なほど断片化著しいものがる。それゆえに、「形状そのものの固有な流れを最大限に尊重する」ことによって、ニュートラルな抽象的まとまりに帰結していくものと、結果的に社会的意味合いの文脈を保存、修復しながらまとまっていくものがあるのだ。その結果の違いの差において「なおす・延長」と「なおす・復元」という、最も基本的な二通りのタイトルが設定されてきた。どちらも断片の固有な性質、存在感を引き出し、成就させてやりたかっただけなのである。
結果として「なおす・復元」となる作品では、それ特有の対比が浮上してくる。例を「車」の作品において考えてみる。「車」というイメージ/目の前の実物の車の断片/つぎたされたイメージ。ニュートラルなレベルでの車のイメージ/ノイジーで変形した具体的な車とその略歴。その中で、「車」そのもの、およびその変形の「傷跡」に対する関心と価値が増大して行くことになる。
それゆえタイトルでは、「なおす・復元」の他に、「あだ名」として「::年前に::で::された::の復元」と、固有な略歴、因果関係を具体的に記すことが多い。
*参考
<復元>
断片の「社会的意味」のレベルに外見上沿うような修復。結果的に例えば車の断片が「車的形状」に導かれることから車の「復元」と呼んでおく。
<延長>
断片の「社会的意味」のレベルとは無関係で、「もの自体」のレベルに沿う修復。結果的に例えば車の断片が「車的形状」ではなく、抽象的な名付けようのない形状に導かれる。元になる断片の特徴を源として、形状を引き継ぎ、引き出して行くため、これを「延長」と呼ぶ。
<「なおす」-「発展型」へ>
「なおす」作業の過程で、「なおす」ニュアンスを逸脱してしまうことがある。言い換えると当初浮上し希求された「基底面」自体が特権的「基底面」ではなくなり、相対化され、あるいはまったく別な「基底面」が浮上してくる場合である。したがって当初の「完全像」も大幅に変更されることになる。
プロセスとしてはある必然的な因果関係を持っているのだが、当初の目的「なおす」行為(「世界像」の維持、メンテナンス)からすると異なる趣を持つ。むしろ「なおす」ことから派生して、変異 増殖 合流 侵入 乗っ取り、、、といった性質が顕著になる。
このような後天的な際立った「変質」をここでは「発展型」と呼ぶことにする。
「発展型」への移行は、単一の断片による復元ではなく、複数の断片による寄せ集めの復元作業時に起こりやすい(「集積」or「合体」)。なぜならば複数の断片の導入により、複数の固有な性質(形状、色、文脈、時間、、)が同時に流れ込み、単一で特権的な「基底面」を維持しにくくなるからである。時として様々な複数の「基底面」が浮上し、拮抗し、相反しあい、当初予想だにしなかった局面に到ることもある。
このような変質は日常の現象世界では頻繁に起こりうることである。