<なおす・集積・延長/復元>  

 多数の断片を寄せ集めながら修復する「集積」においても、抽象的でニュートラルなまとまりに結実するものと、社会的な意味合いが表に露出する具象的なものがある。各々タイトルとして「なおす・集積・延長」、「なおす・集積・復元」と付く。さらに場合によって「復元」の方には、あだ名として「:::で集められた:::の復元」と言ったようなものが付くこともある。  複数の断片の基底面が各々差異を持っているのだが、差異を温存させながらも、部分の総和による単一の基底面と全体像を生成させて行く。全ての部分は固有であり続けながら、同時に「全体」を生み出す構成要素となる。「全体」は常に多様性、重層性を持ち、各々の「部分」は各々相互に、あるいは「全体」に対し、よく対応し、その関係の中で、さらに固有性を際立たせる。後天的に生成される基底面および全体像は、様々な異分子をはらみつつ、たえず揺らいでいる。同時にその個々の部分が、たえず共通の土台・基底面を確認しあい、その全体像を理念化し強化していく。各々の部分は取り替え可能なレンガの一ピースではなく、各々がその全体像に対して必要不可欠なかけがえのない部分として、ある種の必然性をも持って、有機的に呼吸し生き続ける。


 <なおす・集積・制覇/乗っ取り/侵入>

 複数の断片の集積の過程で、ある際立った特徴の断片が混じり込み、主導権を握り、全体像に大きな影響を与える場合、「なおす・集積・制覇」、「なおす・集積・乗っ取り」、「なおす・集積・侵入」、がある。
 「なおす・集積・制覇」では、ある際立った特徴の断片の基底面が、他の全ての断片の基底面を圧倒し、自らの基底面の特性で全体を染めあげてしまうことである。他の断片の固有性は圧殺され、主導権を握った基底面の材料とされ、隷属させられてしまう。
 「なおす・集積・乗っ取り」では、ある際立った特徴の断片の基底面が、全体を染めあげてしまうことでは同じだが、当初の各基底面同士の勢力関係が問題となる。もともと優勢な勢力にはない、小さな弱い勢力の存在。あるいは後付けの後発的存在が、勢力を拡大し、他の断片の基底面、あるいは、相和として生成しつつあった全体の基底面を侵食して、ついには自らの基底面で成り変わって行くことを指す。
   その「乗っ取り」の途中段階、他の存在、あるいは相和としての全体像を侵食して行く、まさにその状態に止まるものを「なおす・集積・侵入」と呼ぶ。
 あるものが生まれる時、つくられる時、あるものがあるものになる時、同時に犠牲になり、圧殺されていくものがある。最もドラマチックな創造は、もっとも強烈な圧殺を生む。犠牲と屍の形跡は、創造の成り立ちと力を証明し、際立たせる。


<なおす・集積・変異/増殖>  

「なおす・集積・変異」では、複数の断片の集積の過程で、ある差異の際立った断片が紛れ込む。それは他の断片の性質や総和として浮上してくるはずの基底面や全体像に、際立った不協和音を突き付ける。いわば突然変異のような異分子を、抱え込みながら、全体が形づくられて行く。
 「なおす・集積・増殖」では、この異分子がさらに成長し増殖して行くことを意味する。あるいは個々の断片が持っているはずの差異、固有性が各々、全体に形成されてきた基底面とは異なる方向に、後発的に増殖して行くことを意味する。
 「変異」と「増殖」では、断片を集積しながら「なおす」という当初の目的自体を、逸脱していく本性を持つ。部分が全体の統制を破り、調和を乱す。当初の目的や全体像が部分の暴走に引きづられていく。抽象的なイメージや観念は常に具体的な事物の存在が放つ、固有なズレに歪められる。
 「なおす・集積」では、個々の断片の基底面の固有性が、差異を温存しつつも、相和として生成される共通の基底面に繋がって行くものだった。
 一方「変異」、「増殖」の場合、異分子の基底面は全体の基底面に十分連結できず、断ち切れている。文字どおり「異分子」が「異分子」として寄生し、共存し、かってに増殖し、全体像にしだいに歪みを生じさせて行く。
 生きている組織とは、つねにそのような異物を抱え込んで、なお組織でありつづける。「全体」は完結したものではなく、つねに何ものかに向かう何ものかなのだ。突然変異や突発的な増殖は、組織に新たな動きと進化をもたらしうる。そのような異物を抱え込み、共存するというのが、実際のリアリティーであり、多層的なものづくりの必須条件である。