<なおす・合体・融合>

 二つの断片が(しばしば新規の修復部を仲介として)各々ほぼ対等に影響しあう。各々の固有性、基底面を共有しあい、その過程で新しいトータルとしての基底面、全体像を形成する。
 この場合は、ある一つの断片の修復に、別なもう一つの断片を、修復部材の代用として用いられる、といったものではない。あくまでも相互に影響しあい、片方が片方の材料に収束するものではない。








<なおす・合体・侵入>

 二つの断片のうち、片方が、もう片方の基底面を侵食して行く過程。当初劣勢だった方が、優勢な側に侵入して行く場合が望ましい。









<なおす・合体・乗っ取り>
 
 侵入した片方が、侵入された片方のほとんどを、自身の固有性で染め上げてしまう。最初からなかったかのように、片方が圧殺され、乗っ取られる。つなぎ目、縁のズレ、質感の差異、上塗り部分、などの微妙な痕跡により、圧殺された片方の断片の存在が生き続ける。そのことによって、乗っ取りの事実、過程がネガティブにその全体像へ刻印される。やはりここでも、当初劣勢だった方が、優勢な側に侵入して行く場合がより望ましい。







<なおす・合体・住みわけ>

 合体されようとする二つの断片が、融合、侵入など相互の影響を断ち、各個に自立しながら、自らの領域を構築し、確保する。二つの断片は、二つのテリトリー(その他に新規修復部が中間領域化して)となって、一つのゆるやかなまとまりを形成する。
 一つの共通の「基底面」を生成させるというよりは、二つの(新規修復部をいれると3つの)基底面が温存される、というよりはより強固に領域化しながら、一つの連合体を形づくっている。



<なおす・合体・分裂>

 二つの断片が相互の共通項で結び付けられながらも、逆に相互の差異、固有性を際立たせながら、全体の基底面を突き破り、各々に分離、自立してしまう。あるいはどちらか一方のみが突出して、差異を増幅させながら、全体から逸脱、分離、自立をとげる。  この場合の作品の外観は、二つが結び付けられ共通の基底面を共有している部分と、違いを際立てながら隔たりを大きくし分離して行く部分からなる。



<なおす・合体・相互拡張>

 結び付けられた断片は、双方が各々影響力を増そうとして、せめぎあう。その場合、両者の勢力は同じ場所で対戦することなく、各々の固有な基底面に即した場所で、勢力の拡大を進めて行く。例えばかつてイギリスとフランスが各々住みわけながら、各々の経路で、植民地拡大を進めて行ったようなものである。
 また、片方が片方の内部に侵入し、乗っ取りを企てた場合、侵入された側は防御策として、侵入者を撃退しようとする。しかし撃退できない場合、侵入者と対戦せず、別な経路に自らの勢力を拡大、または移動しようとする。いわば防御策としての「水増し」が行われる。資本主義社会の企業買収にもつながるこのようなせめぎあいがここで垣間見える。




<なおす・合体・犠牲>

 ある断片の修復に際し、修復部材として、別な断片が代用されることはよくある。しかし、この「犠牲」では、さらに、この代用とされる断片が、欠落した断片ではなく、小型ながらも、もとの完全な原形を留める一個の自立したまとまりであることが要求される。  完結した固体がより大きなものの欠落を埋めるために、自身の身をまるごと投じようとする。すでに何も必要としない完結体が、他者を必要とする欠落した存在のために犠牲になる。その完結体は埋め込まれた「部材」としてより大きな全体の中に生き続ける。


<なおす・合体・継ぎ足し>

 ある程度完結した、欠落していない事物の周辺部に、小さな欠落した断片が付け足される。完結したまとまりが、付け足された他者によって影響を受ける。付け足し部を全体に同化すれば、それは自身の拡張につながる(「なおす・合体・継ぎ足し・拡張」)。逆に付け足し部の基底面が侵食してくれば、一つの触媒として、新たな融合が生まれる(「なおす・合体・継ぎ足し・融合」)。あるいは小さな周辺部の継ぎ足し部が全体を染め上げて乗っ取ってしまう場合もある(「なおす・合体・継ぎ足し・乗っ取り」)。
 いずれにせよ「継ぎ足し」とタイトルが付く作品では次の2点が条件となる。もとになる事物がすでに完結していること。継ぎ足す部分が欠落した小さな断片であること。


<なおす・合体・移植、培養>

 両者が対等な合体では、本来「地/図」の関係はない。しかし最初の段階で際立った大きさの違い、あるいは拡張力の違いがある場合では、おのずと「地/図」の関係が生まれる。例えば「なおす・合体・継ぎ足し」では、継ぎ足された部分が勢力を拡大し、侵食、乗っ取ろうとする方向性が生じると同時に、もとの完結体が「地」に、継ぎ足し部が「図」になっていく。乗っ取りが完結した場合、再び「地/図」の関係が希薄になる。全体が継ぎ足し部の「図」に、染め上げられたからである。
 この「なおす・合体・移植、培養」でも双方の差はきわだっている。移植される側は大きいベースになるもの。移植する小片は小さい異物。もとのベースと、移植される異物の差は、勢力差だけではなく、特徴の差も大きい。共通項も少ない。ニュアンスとしては、「遠い他から運び込まれた」異物である。移植される小片は、それ自体では生きられない、いわゆる「干上がった苗」のようなはかない存在である。運び込まれ、移植されることで、新しい環境、「地」の養分をしっかり吸い、根付き、生き続けることができる。やがては根をのばしつつ成長していく。そしてよりはっきりとした「図」となって培養される。
 外から持ち込まれた断片(図)が、異物のまま、「地」に根付き、複合的に共存する。 「地」は「図」の養分となることで息づき、「図」は「地」を食べることで「地」と深く繋がる。
 ここで「地」と「図」の関係は、通常見られるような、下地の上に形態が置かれるだけの関係ではない。「図」にとって「地」は、「図」の固有性を育む血となり肉となる土壌として有機的なつながりを持つ。
 小片は、いわゆる中間的な「無地」の新規修復部によって修復されるのではない。「有」として、年期のつまった固有な存在-言わば、異なる他者の身体を借りることで、欠落を埋めようとする。他者に寄生することで、なんとか生きのび、自身を確立しようとする。

  *なお「継ぎ足し」、「移植、培養」では、「欠落部を修復する」という「なおす」ニュアンスが稀薄な場合が多く、タイトルから「なおす」をカットする場合も多い。