済州島・プロジェクトに関して―「Dongmun Motel」で見た夢・2014―  

 このプロジェクトは、済州島旧チェジュ市東門市場横で、取り壊されることになった古いモーテルの備品や廃材を、現地で新たに組み直し、そのエッセンスを抽出しながら再構成しようとしたものである。これは、韓国のアラリオグル―プが、2014年、ソウル(1カ所)と済州島(3カ所)にそれぞれ、現地の古い建造物を再利用しながら、新たに美術館としてリノベーションするプロジェクトの一環としてなされたものである。自分はその一つ、済州島のDongmun Motel2階フロアに関わることになった。数度現地を訪れ、モーテルで実際使用されてきた物品や廃材を確保し、春から夏にかけて現地で滞在制作を行ない、リノベーション後新装オープンされる美術館「アラリオ・ミュ―ジアムDongmun Motel―1」の2階(実際のモーテル部分)に、「作品」としてふたたび配置し、一つの空間を展開させることとなった。

 もともとこの「Dongmun Motel」があった地区は、済州島でも古くからの歓楽街であり、取り壊されるモーテルもその土地典型の安宿兼住居空間として機能してきていた。内部には、そこを行き交い、寝泊まりし、あるいは暮らしていただろう、この島の人々の気配が充満していた。同じような備品を備えた同じようなつくりの部屋が無数に並んでおり、一見すると最低限装われた、均質で貧しいかりそめの巣という趣であったが、その一部屋一部屋には、その部屋を使用していた人間の痕跡が残り続け、それぞれ異なる空気が漂っていた。まるで「箱庭」の様に狭く区切られた空間ではあるが、そこには、そこで暮らした人々の人生が詰まっている様だった。これからまさにリノベーション工事が始まり、ベットやタンスが持ち去られ、仕切りとなっていた壁や天井が壊され、それぞれ別個であった空間が消滅してしまおうとしていた。

 今回の自分の試みでは、これら消えてしまうはずの、それぞれの部屋に漂う、それぞれの部屋で育まれてきていた、それぞれに固有な空気を、抽出し、造形物として再構成し保存しようとしたと言えるだろう。これらの部屋を使用し生活していた住人は(済州島のこの種のモーテルではしばしば、長期滞在あるいは終の棲家として使用されることも多いらしい)、それぞれの部屋でどのような暮らしをしていたのか。つまるところ、この韓国南端の孤島、陰惨な歴史に翻弄されてきた済州島の安宿の一室で、どのようなことを夢見て、どのような想いをいだいて生きていたのだろう。それぞれの部屋には、住人達の育んでいた夢がそれぞれの仕方で反映しており、今なお濃厚にこびりついている様だった。それらはある意味で大変たわいのない、あるいは貧困な夢であったかもしれないが、それぞれに固有でかつかけがえのないものであると感じる。
 そのような各部屋に残された夢の痕跡を抽出しながら、新しく生まれ変わるはずの美術館に、それぞれの夢を装い新たに、目に見える形で展開しようとした。
 モーテル―「ここ」の住人達が見た夢を、美術館を訪れるはずの観客があらためて「ここ」で見るということ、、、。見られるべき高貴な美術館の作品であるはずのものが、ここで暮らした底辺の民衆達ひとりひとりの夢の苗床であるという皮肉、、。
 外来の有名作品・絵画や彫刻が展示される代わりに(事実、現在リゾート開発されている済州島には、今回のアラリオ・ミュージアムに限らず、国際的な美術工芸品の展示するミュージアムが多い)、それぞれの「復元」されたモーテルの部屋の部分部分が、それぞれ「リノベーション」されながら、同じくリノベーションされたもとの空間に、再度展開してあるということ。
 観客は作品を観るように、それぞれの部屋を覗き、まさにそこで育まれたはずの済州の人々の夢を見て巡り歩く。

  それぞれの部屋―育んだ夢―脳内を一堂に配置し全体を傍観しかつ巡回すること。
  それはある意味もうひとつのテーマパークを巡ることにほかならない。
  それは貧困ではあるが、本物の夢の公園なのだ。

                                     2015年5月 青野文昭 

 
 ・ 滞在制作記