<分析について>
元来「分類」という行いは諸刃の刃で、良い面と悪い面が相反してある。分類は片寄った価値観、権威付けがともなってくるので、精細な分析の土台を準備し、問題の所在を明らかにしながらも、多くのダメージを人芸品に与えてきていると私は考えている。前近代の世界では、各々の神話体系、階級的価値観により世界が組織されてきたように、造形文化もまた同様に格付けされてきた。近代世界では純粋芸術、実用、宗教が分離されているように、また造形も分離され、用途によって定義される。さらに今日の高度資本主義世界ではあらゆるものが商品として格付けされ、理解されて行く。その他様々な格付け、分類が志向されてきているが、結局のところ何かが強力に押し上げられれば、他の何かが不等におとしめられることには変わりがなかった。さらにその世界、時代の中で、ある格付け、分類尺度がメジャーになれば、その世界、時代でのものづくりも多大な影響を受けてしまうという事実も忘れてはならない。不等な格付けは、不等な価値観を蔓延させ、不等なものづくりを広げ、良品を根絶やしにしてしまう。実に「分類」という行いは恐るべきものであり、まずその認識が何よりも欠けてしまう場合がもっとも危ない。
例えば「名称」一つとってもよくよく考えて行くと大変微妙な問題が発生する。その造形物をなんと呼ぶか、どういう名称を付与するかによって、すでに一つの分類・価値体系内への編入を前提としてしまう場合が多い。 例えば「タイの白地に青い筆致の模様がほどこされた亀の陶器(甲羅をはずすと中が入れ物になる)」を例にとって考えてみる。実用的意味合いから見れば「亀型小物入れ」。商品名としては「亀型小物入れのタイ青白陶器」。亀にポイントをあわせれば「タイ青白陶器製の亀」といったところだろう。「小物入れ」にポイントがあるか、「青白陶器」にポイントがあるか、「亀」のデザインにポイントがあるかで微妙にその呼び名がかわらざるをえない。焼き物一般の中での青白陶器なのか、青白陶器という商品ジャンルの中のの亀型小物入れなのか、亀という造形モチーフのなかの青白陶器バージョンなのか。呼び方である程度比重がでてしまう。そうして全ての要素をできるだけ対等に含ませて呼ぼうとするとめりはりなく長くなりすぎる。そういうことからすると名称化とははじめから他とそれを類別し、能率的に処理するためのものなのかもしれない。その類別の基準が用途、商品ランク、技術、素材、様式、モティーフなどのどこにあるかで全てがかわってくる。ある特徴が重視されたり軽視されたりして、違う仲間であったものが同じ仲間になり、同じジャンルに位置付けられたりする。各々の人芸品は時代や場所、扱う人間でその呼び名を変えてきた。いわゆる「商品名」とか「正式名称」といわれるものの多くは近現代になって、しかも外側の人間の視点、尺度を反映させたものである。そういうわけで「名称」そのものについても簡単ではない。
分類はいたずらにある事物を定義付け、格付け、序列化、組織するためのものであってはならない。階級やジャンル、用途、趣味、価格、希少価値、ブランド、素生、、などにともなう格付けに惑わされてはいけない。事物に附随する様々な物を剥ぎ取り、直にそれと向かい合う必要がある。結論は常に「良い」か「悪い」しかない。あらゆる造形物には良いものと悪いものしかない。もの自体に真に内在する造形的資質の有無は、あらゆる定義を越える普遍的な事実である。
ここで我々は人芸品をバランス良く健全にそして深く分析するために、以下の五つのポイントを準備した。「外観」、「カテゴリ−(由来)」、「テーマ」、「材質・製法」、「産地」の各項目は、これまで無批判に施されてきた様々な名称、分類、格付けの暴力から、人芸品、そうして「ものづくり」そのものを解放するために想定したものである。ゆえにこれらは一元化や効率化を前提にした分類を目的とするものではない。まったく逆に、一つの造形が持っている様々な特性、多層的な時間と空間をより深く観て行くためのものである。
<外観> 率直な外観の印象。あくまで伝統的な名称、商業的な名称、あだなとは異なる。
<カテゴリー> ジャンル、用途、意味合いの生成、変化、融合など。
<テーマ1・2・3> デザインや装飾のもとになる主題、モチーフ。
<材質・製法> 素材と加工について。
<産地> 造り出される場所の個性。風土、歴史、民族、社会組織など。
以上「外観」以外の各項目は各々別ページで詳しく説明されている。なお下線部をクリックするとそのページが開く。
<仮想・人芸分類表>
一応念のためいくつかの品を、以下の様に図表化してみた。この表はほとんど無限大に膨れて行くことになるので、あくまでもほんの一部を用いた例示にとどめおく。
外観 | 材質・製法 | 産地 | ||
白地に青の描彩を施した陶器・亀の形をした小物入れ | 支配者の文化(の民衆化?)、生活必需品、置き物、伝統産品(青白陶器)各々の融合した性質。 | 亀(聖獣、縁起の良い、愛贋物としての)、植物模様、小物入れ容器 | 粘土、焼き物、描彩 | タイ(北部タイ、中国の影響?) |
左右に髪を束ねた人物の木製操り人形 | 支配者の文化、芸能、民衆化、土産物 | 人間(女性、子供?)・神話上の登場人物 | 木、布、刺繍、彫刻、描彩等 | ミャンマー |
熊にまたがった人型土人形 | 置物、飾り物、縁起物、土産物(花巻人形) | 民話、伝説を背景、金太郎と熊(熊の上に金太郎またがる) | 粘土、鋳型成形、素焼き、描彩 | 日本・岩手県花巻(伏見、堤人形等の影響) |